研究概要 |
不斉ならせん構造の形成のメカニズムは、らせん構造を有する生体高分子の構造-機能相関を理解する上で、また、化学進化における不斉の発生を考える上で興味深い。本研究課題では、柔軟ならせん分子の不斉を光学活性らせんテンプレートで制御し、らせん部位間に働く相互作用を介したヘリシティ-ヘリシティー認識による単一方向性らせん集積構造の構築について検討した。らせん分子として非環状テトラピロールの亜鉛錯体である亜鉛ビリノンの二量体を、キラルヘリカルテンプレートとしてヘリセンおよびビナフチル誘導体をそれぞれ用い、円偏光二色性(CD)およびプロトン核磁気共鳴(^1H NMR)スペクトルを用いてそれらの配座平衡の解析を行った。ヘリセンをテンプレートとする亜鉛ビリノン二量体は、ヘリセン部位の不斉に起因する光学異性体間の分割が困難であり、単一方向性らせん集積体を得るには至らなかった。一方、ビナフチル骨格をテンプレートとする亜鉛ビリノン二量体として、(S)-ビナフチル基の6,6'-位からフェニルメチル基を介して亜鉛ビリノンが結合した一連の量体を合成し、単一方向性らせん集積構造の形成について評価した。CDスペクトル測定から、右巻き-右巻きのホモヘリシティー構造が安定であることがわかったが、ビナフチル基と、フェニルメチル基を介して結合する亜鉛ビリノンとの相対的な幾何が異なることによって、ホモヘリシティー構造の安定性が異なることが示唆された。^1H NMRスペクトルおよび分子モデリングの結果から、亜鉛ビリノン同士が近傍に位置する二量体では、ヘリシティー-ヘリシティー認識が有効に働き、ホモヘリカルコンフォマーが安定化したと考えられる。さらに、光学活性アミン類との錯形成によってホモヘリシティー構造の安定性は助長され、外部不斉因子によっても単一方向性らせん集積構造の形成の制御が可能であることがわかった。
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