細菌のEF-Tuの研究から、EF-TuはアミノアシルtRNAのアクセプターアームとTアームを認識していることが知られている。線形動物ミトコンドリアにおいてはEF-Tuとの相互作用に必要と思われるTアームを欠失したtRNAが存在している。線形動物ミトコンドリアでは22種類存在するtRNAのうち、20種類がTアームの欠けたtRNAで、残る2種類はDアームを欠失したtRNAであり、それぞれEF-Tu1とEF-Tu2という2種類のEF-Tuにより認識されることが分かっている。本研究では、これらのtRNAのEF-Tuによる認識機構を調べることにより、RNA構造の短縮化が蛋白質によってどのように補われているかを考察することを目的としている。前年度は、EF-Tu1によるTアームを欠いたtRNAの認識機構の解明に取り組み、EF-Tu1は通常と異なるC末端延長部分により、標準的なEF-Tuが結合する部位以外にtRNAL字構造の内側部分を認識していることを明らかにした。本年度は、以上をふまえて、更に研究を進めた。 1)EF-Tu1とtRNAの相互作用を分子レベルで明らかにするため、EF-Tu1のC-末端部分(約150残基)のNMRによる立体構造解析に取り組み、解析に必要なスペクトルを揃えるところまで到達した。 2)EF-Tu2によるDアームの欠けたtRNAの認識について調べた。全く同じtRNA部分を持つセリルtRNA、アラニルtRNA、バリルtRNAを用意し、これらに対する結合を調べたところ、EF-Tu2はセリルtRNAのみを認識することがわかった。通常のEF-Tuは全てのアミノアシルtRNAと結合するため、セリン特異的な認識は極めて珍しい例である。線形動物ミトコンドリアではDアームの欠けたtRNAはセリンtRNAのみであるため、EF-Tu2はこれに対応したものと思われる。 以上のように、Tアームの欠けたtRNAには、新しいtRNA認識部位をもつEF-Tuが対応し、Dアームの欠けたtRNAには、アミノ酸特異的認識を行うEF-Tuが対応していることが明らかになった。動物ミトコンドリアには通常のtRNAと異なる多様なtRNAが存在し、それらがどのように機能しているかは謎であったが、本研究で明らかにしたようにEF-Tuが共進化してtRNA構造の欠損を補っていることが、一つの答えだと考えられる。
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