研究概要 |
アルツハイマー痴呆症は、脳内のβアミロイド蛋白質(βAP)の蓄積が主要な原因であると考えられている。βAPの前駆体蛋白質(APP)は膜結合型蛋白質として生合成された後、大部分がβAP領域内で切断され、その細胞外領域(sAPP,110kDa)が構成的に放出されつつ、βAPを産生しない経路で分解される。しかしながら、APPや放出されるsAPPの生理的役割については殆どわかっていない。私達はこれまでの研究から、sAPP分子内にゼラチナーゼA(MMP-2)に対するインヒビター領域が存在することを見い出して来た。さらに、細胞膜結合型マトリックスメタロプロテアーゼであるMT1-MMPがAPPに作用すると、sAPPのCOOH末端領域を欠く短い断片sAPPtrc(80kDa)が切り出されることを見い出し、この断片がインヒビター活性を失っていることから、sAPPtrcを生じる新規プロセッシングには活性化されたゼラチナーゼAの機能を調節するという意義があるのではないかと考えている。本年度は、sAPPによるゼラチナーゼA阻害機構を分子レベルで明らかにすることを目的としてインヒビター部位の同定を行った。APPのインヒビター領域はMT1-MMPによる切断部位よりもCOOH末端側にあると予想されるので、この領域を含む種々の長さのAPP断片をGST-融合タンパク質として大腸菌に発現させた後、それぞれのインヒビター活性を調べたところ、活性に重要な部位はMT1-MMP切断部位付近の比較的狭い領域内に存在することが判明した。さらにこの領域内のアミノ産配列をもつ種々のペプチドを化学合成し、活性を調べた結果、10アミノ酸残基からなるペプチドがsAPPと同等のインヒビター活性(Kiapp=40nM)を持つことが判明し、この配列部分がインヒピター領域を形成していることが明らかになった。
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