研究概要 |
多細胞生物を構成する様々な細胞はその役割に見合った形態をしており,それぞれの細胞の形態は分化の過程で獲得される。分化に伴う細胞の形態変化の分子メカニズムを理解することは,再生医学を発展させる上でも重要である。哺乳動物において興味深い形態変化を遂げる細胞の一例として精子形成に着目し,分子レベルでそれを解析して以下の研究成果をあげた。 δチューブリンの精子形成における役割の解明。哺乳動物のδチュープリンは2000年に私(当時,理化学研究所に在籍)を含む世界の3グループで新たに発見された新規チューブリン遺伝子である。抗マウスδチューブリン抗体による詳細な組織染色の結果,δチューブリンは精子細胞の核環に局在することを突き止めた。核環に局在するタンパク質としては2つ目の例であった。次に,δチューブリンは精子細胞の細胞間架橋にも局在することを見出した。精子細胞による細胞間架橋の構築の分子メカニズムは全く不明であり,δチューブリンを手がかりにその解明が期待される。またマウスには2種類のmRNAのアイソフォームが存在することを見出し,現在そのアイソフォームの役割りを解析中である。 新規膜タンパク質k5の発見とアクロソーム形成における役割の解明。k5(仮名,未発表)は精子細胞のゴルジ体に局在する膜タンパク質で,東京工業大学の広瀬茂久教授のグループで発見された新規の遺伝子である。k5は,精子のみに存在するオルガネラのアクロソームの形成に関与すると考えられる。現在,これらのk5の作用メカニズムを分子レベルで解析するとともに,特殊に分化した細胞の形態変化に関わる新規分子のさらなる検索を行っている。
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