タンパク質性の感染因子であるプリオンの概念は、羊のスクレイピー(およびクロイツフェルトヤコブ病、狂牛病なども含む)の感染機構を説明するためにprusinerが提唱した概念に端を発する。が、近年では酵母にもプリオン的な挙動をするタンパク質が複数あることがわかってきており、プリオンの概念はかなり普遍的なものとなってきた。 通常、異常型プリオンは規則的に重合してアミロイド様の線維となることが知られている。さらには、その線維状タンパク質が正常型を異常型へと変換する際の触媒となる。ということはつまり、プリオンの触媒する構造転換のメカニズムを考える上で、プリオン線維の形成機構を知ることは非常に重要である。しかし、プリオン線維がどのようにできていくのかについて分子レベルでの研究は非常に遅れている。そこで本研究は、近年既に実用の域に達している高感度の蛍光顕微鏡システムを用いて、プリオンの線維形成過程を生きたまま一本一本観察することを目的とした。材料としては安全で変異導入も容易な酵母のプリオンタンパク質を使った。この研究では、多数の分子の平均を観察する従来の生化学の限界を超えて、プリオンの本質に迫ることが可能なはずである。 平成14年度は平成13年度に引き続き、固定したプリオン線維の実時間での線維成長観察を行い、その統計的な解析を開始した。さらに、一個一個の単量体が線維に取り込まれるようすを観察するための1分子蛍光顕微鏡(全反射エバネッセント顕微鏡)を作成し、その評価を行った。
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