糖転移酵素GnT-IIIのアロステリック活性制御機構と糖鎖生合成における意義

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13780504
• 研究種目: 奨励研究(A)
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 鄭 文玉 大阪大学, 医学系研究科, 助手 (60252657)
• キーワード: 糖鎖 / 糖転移酵素 / アスパラギン結合型糖鎖 / バイセクティングGlcNaC / 活性制御 / アロステリック効果 / 組み換えタンパク質 / ピロリン酸

研究概要

本研究では、アスパラギン結合型糖鎖のコア構造に付加されるbisecting GlcNAcと呼ばれるユニークな構造の形成を触媒する糖転移酵素、β1,4-N-アセチルグルコサミン転移酵素(GnT-III)に見い出した協同的な活性制御のメカニズムについて検討を行った。バキュロウイルス-昆虫細胞発現系を用いて分泌型組み換えGnT-IIIを発現させ、ウイルス感染細胞の培養上清よりリコンビナント酵素を精製し、酵素活性に対するピロリン酸の効果を検討してみると、GnT-IIIの酵素活性が抑制されることがわかった。この抑制をさらに詳細な検討してみると、ピロリン酸はUDPのような競合阻害剤とは異なり、糖供与体基質や受容体基質、もう一つのリガンドである2価金属イオンのいずれとも競合せず、これらの結合部位とは異なるいわゆるアロステリック部位に結合し、酵素を活性型から不活性型へと変換させることが示唆された。さらに、この2状態間の遷移は、ヒル定数が6〜10の非常に協同的な過程であることも明かとなった。それぞれの状態にある酵素の性質を詳しく調べるためピロリン酸非存在下における活性型、および存在下における不活性型の速度論的解析を行った。その結果、ピロリン酸によりドナー基質、アクセプター基質に対するKm値がそれぞれおよそ10倍および8倍上昇する一方、Vmaxは大きな影響をうけないことがわかった。また、活性に必要な2価金属イオンであるマンガンの酵素への結合も変化がなかった。このような結果から、GnT-IIIにピロリン酸が結合することによって構造になんらかの変化がおこり、触媒能には影響をあたえずにドナーおよびアクセプターに対する親和性が変化することが示唆された。また、これらの性質の変化は高度に協同的であることから、この酵素が多量体を形成しており、各プロトマーは機能的に相互作用している可能性が考えられた。

研究成果

• [文献書誌] Koyata S, Ikeda Y, Miyagawa S, Ihara H, Koma M, Honke K, Shirakura R, Taniguchi N: "Down-regulation of the alpha-Gal epitope expression in N-glycans of swine endothelial cells by transfection with the N-acetylglucosaminyltransferase III gene. Modulation of the biosynthesis of terminal structures by a bisecting GlcNAc"J. Biol. Chem.. 276. 32867-32874 (2001)
• [文献書誌] Chakraborty AK, Pawelek J, Ikeda Y, Miyoshi E, Kolesnikova N, Funasaka Y, Ichihashi M, Taniguchi N: "Fusion hybrids with macrophage and melanoma cells up-regulate N-acetylglucosaminyltransferase V, betal-6 branching, and metastasis"Cell. Growth Differ.. 12. 623-630 (2001)
• [文献書誌] Ihara H, Ikeda Y, Koyota S, Endo T, Honke K, Taniguchi N: "A catalytically inactive beta 1, 4-N-acetylglucosaminyltransferase III(GnT-III)behaves as a dominant negative GnT-III inhibitor"Eur. J. Biochem.. 269. 193-201 (2002)
• [文献書誌] Eguchi H, Ikeda Y, Koyota S, Honke K, Suzuki K, Gutteridge JM, Taniguchi N: "Oxidative Damage Due to Copper Ion and Hydrogen Peroxide Induces GlcNAc-Specific Cleavage of an Asn-Linked Oligosaccharide"J. Biochem.. 131. 477-484 (2002)