低分子化合物MT-21は、ヒト前骨髄性白血病細胞(HL-60)に活性酸素産生を伴うアポトーシス様細胞死を引き起こす。MT-21は、HL-60細胞から単離したミトコンドリアに直接作用して、ラジカル産生量を増加させることを明らかにした。またMT-21は、ミトコンドリアに直接作用して、呼吸鎖の一部であるチトクロムCの放出を誘導することを昨年までに明らかにした。MT-21によるラジカル生成量の増加は、チトクロムC放出に起因する電子伝達鎖異常による二次的な現象であることが考えられた。アポトーシスにおけるチトクロムCのミトコンドリアから細胞質への遊離は、カスパーゼ9を活性化してアポトーシスを誘導するため、MT-21のアポトーシス誘導機構として主要な役割を担うと考えた。 本年度は、MT-21によるチトクロムCの放出誘導機構の解明を目的として、ミトコンドリア外膜、内膜のコンタクトサイトに存在してアポトーシス誘導時のチトクロムC放出に関与していると考えられているpermeability transition pore (PTP)に着目して、MT-21の標的分子の同定を試みた。MT-21は、PTPの構成タンパク質の一つであるadenine nucleotide translocase (ANT)の活性を顕著に阻害し、ANTの構造を変化させることを明らかにした。さらに、同じくPTPを構成するタンパク質の一つでPTPの開閉に関与すると考えられるシクロフィリンDとANTとの蛋白質間相互作用に与えるMT-21の影響を検討した。ヒトのシクロフィリンD遺伝子をクローニングして、GST融合タンパク質として大腸菌に発現させた。得られたGSTシクロフィリンD融合蛋白質は、ミトコンドリア内膜から可溶化したANTと結合することが確認できた。MT-21は、GSTシクロフィリンDとANTとの結合を顕著に阻害した。 MT-21は、PTP複合体のANTに直接作用してその立体構造を変化させること、またANTとシクロフィリンDの結合を阻害することでPTP複合体のそのものの構造を変化させることでチトクロムCの放出を誘導すると考えられた。
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