一般に、蛋白質は折りたたみ反応の初期にモルテン・グロビュール状態を形成し、モルテン・グロビュール状態で二次構造を形成している領域(領域I)がその後の反応の遷移状態においてさらに構造化(側鎖の密なパッキングの獲得)をして天然状態へと折りたたんでいくという「階層的モデル」に従うと考えられている。このモデルを検証することを目的として、ヤギα-ラクトアルブミンに部位特異的アミノ酸置換を導入し、その変異体の安定性と折りたたみ反応速度を測定し、φ値解析を行った。その結果、モルテン・グロビュール状態で構造がほとんど形成されていない領域(領域II)に変異を導入した変異体(V271、W118F)については、巻き戻り速度は野生型と同じであるが変性速度は野生型よりも速くなっており、φ値はほぼゼロであった。このことは、遷移状態において側鎖の密なパッキングはまだ形成されていないことを示している。一方、領域Iに変異を導入した変異体(195V)については、巻き戻り速度が野生型よりも遅くなっており、中程度のφ値が得られた。このことは、遷移状態において一部分、側鎖の密なパッキングが形成されていることを示している。また、領域IのA92に変異を導入したA92Gの場合には、野生型と同じ安定性とフォールディング速度を示したため、φ値解析はできなかった。以上の結果は、「モルテン・グロビュール状態で形成されている部分が遷移状態においてさらに構造化されて進行していく」という階層的モデルによってα-ラクトアルブミンのフォールディング反応を記述できることを示唆している。
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