平成14年度は、前年度までに性能を向上させたエネルギー・1次・2次微分の並列計算システムを用いて、GlnRSとの結合定数が野生型の30倍であるGln-tRNAアプタマーと野生型Gln-tRNAのダイナミクス解析を行った。またこれまでの二面角系基準振動モード解析計算に加えて、並列分子動力学計算により、アプタマーと野生型それぞれのフリー状態および複合体形成状態のダイナミクスを解析した。Gln-tRNA分子では、フリー状態でループの内側でスタックしていると思われるアンチコドンループの塩基が複合体構造中ではループの外に出ているので、フリー状態の立体構造がX線結晶解析により得られているPhe-tRNAのアンチコドンループを参照構造として、Gln-tRNAのアプタマーおよび野生型のフリー状態の立体構造をモデリングした。これらの構造およびGlnRSとの複合体構造に対して水分子を陽に含んだ系において並列分子動力学計算を行い、得られたトラジェクトリを主成分解析によって解析した。これにより、基準振動モード解析で得られていた大きな低周波運動が分子動力学計算でも見られることを確認し、さらにアプタマーと野生型においてフリー状態のダイナミクスと複合体形成に伴う構造変化の関係・相違を解析することができた。さらにElastic Network Modelによるダイナミクス解析システムを開発し、これまでのシステムに加えて大規模なtRNA-ARS複合体のダイナミクスを簡便に見積もることができるようになった。これらのシステムを統合的に用いて、Gln系以外の数個のtRNA-ARS複合体について、フリー状態と複合体形成状態のダイナミクスの相違を解析するための初期の結果を得た。また、これまでの成果であるGln系のtRNA-ARS複合体の二面角系基準振動モード解析結果をまとめた論文が、Chemical Physics Letter誌で印刷中である。
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