膜タンパク質の構造・機能に関する情報は、水溶性タンパク質に比較して圧倒的に少ない状況であり、基礎・応用の両面から、膜タンパク質に関する研究の重要性が急速に高まっていると言える。本研究では、機能上重要な膜タンパク質である7本膜貫通型のモデルタンパク質として立体構造が明らかなバクテリオロドプシン(bR)を対象とし、その構築原理を明らかにすることを最終目標としている。この研究において、native構造⇔変性構造の中間状態を明らかにすることはきわめて重要なステップとなる。そこでまず、unfolding中間体とrefolding中間体に関する構造、運動性の情報を可能な限り取得することを行った。特に最近見出した光誘起変性現象に関係する高温変性中間体に注目した研究を展開した。 紫膜中のbRでは、円二色性および紫外可視吸収から、60℃付近から構造変化を起こすが、70℃付近までは可逆的な構造変化を示した。熱変性については、従来考えられていたよりも低い温度、つまり70℃付近から熱による不可逆な退色現象が起きる一方、光駆動ポンプとしての機能を引き起こす光照射下では、60℃付近から光誘起変性(光退色)が生じることがわかった。水溶性の加水分解試薬であるヒドロキシルアミンとbRの反応速度の温度依存性を調べたところ、60℃付近で大きく挙動が異なった。このことは、レチナールのシッフ塩基への水分子のaccessibilityが60℃付近で大きく変化していることを意味しており、このことが光機能中間体の不安定化に関係していることが示唆された。 refolding実験については、バクテリオオプシン(bO)とレチナールからのrefoldingの条件を、bOの調製条件とレチナールの異性化状態に注目して、詳細に検討した。今後、この知見に基づいて、refoldingのプロセスをいくつかの分光法により追跡する予定である。
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