本研究の目標は、細胞中での構造形成において、細胞はどのように時間的な制約と、エネルギーの節約とをバランスさせているのかを理解することである。具体的なパラダイムは、E-カドヘリンによる細胞間接着構造の形成である。これは最近、我々の研究室において、生細胞中の1分子を観察/操作する方法に、以下の大きな進展をみたために可能になったものである。(1)世界ではじめて、生細胞中で、個々のGFP分子の観察に成功した。(2)一粒子追跡法において、時間分解能を25μsまで高めた(世界最高速)。(3)金コロイドと抗体のFabフラグメントの結合法を改善し、大抵の細胞膜上の膜タンパク質に対して、1分子ラベルができるようになった。 本年度は以下の研究をおこなった。(1)一分子走査光学力顕微鏡を開発した。これは、金コロイド粒子に結合した膜タンパク質をプローブとし、それを捕捉する光ピンセットをカンチレバーとする原子間力顕微鏡で、膜タンパク質1分子をプローブとして、細胞膜中の構造を調べることができるのが特徴である。これを用いて、世界で初めて、生細胞中での膜骨格をイメジングすることに成功した。(2)次に、接触した2細胞にあるカドヘリン間で、まず最初に2〜数分子間の弱い結合が生起した時に、それがどのようにして多数の分子の集合を誘起するのか、その機構の解明に取り組んだ。このため、GFP-E-カドヘリンを発現する細胞と、E-カドヘリンを含む再構成ベジクル(細胞質側から金コロイド粒子で標識する)の作製をおこなった。さらに、この系を用いて、結合した直後のE-カドヘリン分子1分子の運動を追跡しているところである。接着領域への分子の集合は、単純拡散では説明できない早さでおこるので、自由拡散していた分子が、接着構造へ方向付けられた運動に変化するところを捉えるための努力をおこなっている。
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