1.ヘムを感知しシグナルカスケードを制御可能な人工蛋白質の設計 最近のゲノムプロジェクトにより、生体内には生命活動に必須の多くのシグナル伝達系が存在していることが明らかになってきた。本研究では、これらシグナルカスケードを人工的に改変する人工蛋白質を創製することを目指して、ミオグロビン(Mb)にトリプトファニルtRNA合成酵素(TrpRS)と結合できるグリセルアルデヒド 3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GapDH)のモジュールを融合することにより、ヘムの有無の有無により、TrpRSとの結合を制御する新規蛋白質の創製を目指した。Mbのアミノ末端にGapDHのモジュールを融合したキメラ蛋白質は、ヘムと強く結合し、天然Mb同様、酸素が可逆的に配位できる安定なヘム近傍構造を持つことが明らかになった、また、このキメラ蛋白質は、天然のGapDH同様、TrpRSと特異的に結合でき、さらに、TrpRSのアミアシル化活性を大幅に上昇できることがわかり、新規機能性蛋白質の創製に成功したことが明らかになった。 2.脳内に局在するグロビン蛋白質の新規機能の発見 最近、脳内に酸素結合が可能な蛋白質「ニューログロビン(Ngb)」が存在することが報告され、虚血に伴う細胞死の抑制へのNgbのかかわりが指摘されている。今回、このNgbがシグナル伝達系を制御する分子として機能しているという仮説を立て、実証を目指した。まず、Ngbと相互作用する脳内蛋白質分子を特定するために、Yeast Two-Hybrid System法により、ヒトNgbをbaitとし、ヒト脳cDNAライブラリーを用い、探索を行った。表面プラズモン共鳴装置による蛋白質間相互作用の解析もあわせて行った結果、Ngbは、数種類の脳内シグナル伝達蛋白質と結合することが明らかになった。さらに、種々のモジュール置換した変異体を用い複合体形成時の機能解析を行い、Ngbによる虚血時シグナル伝達系の制御メカニズムを解明し、Ngbはモジュール単位で機能分担していることを明らかにした。
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