タンパク質が構造を形成し、安定に存在するための、必要十分条件を探索することを目的としている。 タンパク質の構造には、アルファヘリックスとベータシートという2種類の二次構造が存在する。アルファヘリックスについては、既にかなり研究されているが、ベータシートに関しては未知な点が多い。そこで、まずベータシートを豊富に含むタンパク質について、その構造安定性について、熱力学的および構造的測定を行うことで、詳細に研究を行った。この結果、1)静電的な相互作用が強くその安定化に寄与していること、2)疎水相互作用が構造単位を維持することに必要なこと、3)構造転移の多段階性、などが明らかになった。特に、1)の結果は、研究に用いたタンパク質に、リジンやグルタミン酸などの電荷を持つたアミノ酸残基が多数存在することで、初めて明らかになったことである。また、2)と3)については、このタンパク質が加熱に従って3段階に変性していくが、これらの構造単位を明らかにし、またその構造がなぜ1単位として安定に存在し得るかを明らかにしたものである。 一方、タンパク質の三次元構造の形成には、これらの二次構造とアミノ酸側鎖を含めた相互作用が必要となる。特に疎水相互作用が重要と考えられるため、タンパク質内部に存在する疎水アミノ酸残基を遺伝子操作によって他のアミノ酸に変換し、その構造形成能の評価を行った。測定には、核磁気共鳴などの分光学的手法と熱測定などの熱力学的手法を併用した。この結果、内部の大きな変換の影響は内部で吸収され、全体立体構造や活性には影響を与えないことが明らかになった。これはタンパク質構造の柔軟性というものを示した点で注目される。
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