チトクロム酸化酵素の酸素還元反応、ならびにプロトン輸送の分子機構を解明するためには、反応中間体の構造を知る必要がある。反応中間体のうちP型とF型は、酸化型との差スペクトルにおいてそれぞれ607nmと580nmに吸収極大を示す。P型とF型の活性中心にある酸素分子種の同定、ならびに反応に伴うタンパク質の立体構造変化の解明を目的としてX線結晶構造解析を行った。 1、反応中間体の結晶の調製。酸化型チトクロム酸化酵素の結晶をこれまでに確立された方法により作成した。結晶が安定に存在するpH5.7の緩衝液中で、過酸化水素の添加により反応中間体の生成を行った。反応中間体の結晶中に占める割合、生成速度、及び結晶へのダメージ等について検討した結果、P型では過酸化水素濃度が1mMの場合に、F型では5mMにおいて最も良い結晶標品が得られることが分かった。 2、結晶のスペクトル測定。新しく開発した顕微分光装置を用いて、上記の酵素反応による結晶の吸収スペクトル変化の測定を行った。光源に高輝度のキセノンランプを用いることにより、結晶の吸光度の測定が可能となった。対物レンズにより結晶の大きさ以下に集光し、透過光を分光して酸化型結晶との差スペクトルを測定した。607nm、580nmの吸光度差、及びP型、F型酵素溶液の分子吸光係数から、結晶中での割合はP型の標品では7割以上、F型の標品では.5割以上と見積もられた。 3、結晶中での反応中間体の安定化。反応の進行を止め中間体を固定するため、結晶を100Kの低温窒素気流により急速凍結した。凍結した結晶は液体窒素中で保存した。凍結状態で結晶のスペクトルを測定したところ、反応中間体が安定に保持されていることが確認できた。
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