研究概要 |
チトクロム酸化酵素の機能の分子機構を解明するためには、機能発現に係わる構造変化の同定が必須である。酸素還元反応では、還元型活性中心への酸素の結合により中間体P型が生成し、更に1電子還元により中間体F型が生成する。また、P型とF型は酸化型活性中心への過酸化水素の結合によっても生成する。本研究ではP型とF型の活性中心にある酸素分子種の同定、及び反応に伴うタンパク質の立体構造変化の解明を目的としてX線結晶構造解析を行った。これまでに、酸化型結晶への還元剤の添加により還元型結晶が得られ、過酸化水素の添加によりP型、及びF型結晶が得られた。結晶の吸収スペクトル変化の測定から、結晶中での中間体の割合は還元型ではほぼ全て、P型では7割以上、F型では5割以上と見積もられた。得られた結晶は100Kの低温窒素気流により急速凍結し、中間体状態を保持した。 (1)X線回折実験。Spring8 BL44XUビームラインの放射光を用いてX線回折実験を行い、最高分解能が還元型1.9Å、P型1.86Å、F型2.0Åの回折データを収集することができた。また、各中間体ともに複数のデータセットを収集した。 (2)反応中間体の構造解析。得られた回折データを用いて分子置換法により初期位相を決め、位相改善計算をした後、電子密度図を作成した。その結果、還元型では認められない電子密度がP型とF型では活性中心内の2ヶ所(ヘム鉄と銅との間、及びチロシン側鎖との水素結合距離内)に見いだされた。それぞれの電子密度は酸素1原子ずつに相当すると考えられ、酸素還元反応における反応生成物がP型とF型の段階においてこれら2ヶ所に結合している可能性が示唆される。また、還元型とP, F型とではヘムa側鎖、及び近傍のペプチド主鎖のα-ヘリックス構造に変化があることが新たに見いだされた。
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