近年、遺伝子中では一般のアミノ酸としてコードされ、翻訳後修飾により補酵素に変換されて酵素反応に用いられるビルトイン補酵素が見つかってきた。Arthrobacter Globiformis由来フェニルエチルアミン酸化酵素中のビルトイン補酵素であるトパキノンは、銅イオンと酸素の存在下でその前駆体中のチロシン残基の酸化的修飾によって生成する。この生成機構を解明するため、結晶中でトパキノン生成反応を制御し、反応中間体を低温トラップし、それらの構造決定を行った。まず、前駆体アポ型酵素を厳密な嫌気条件下で結晶化した。得られた結晶を硫酸銅と抗凍結剤であるグリセロールを含んだ溶液に移し、銅イオンが結合した初期中間体を含む結晶を作成し(Bio1)、液体窒素温度で中間体をトラップした。次に、この銅結合型の結晶を空気飽和した結晶母液に移した後、10分後(Bio2)、100分後(Bio3)及び3日後(Bolo)に同じように液体窒素温度で反応を止め、結晶を保存した。これらの結晶中での反応の進行状況を顕微分光で確認し、Holoのみトパキノンが生成していることを確認した。次に、これらの結晶のX線回折強度イメージをSPring8の放射光を用い、BL44XU、BL44B2のCCD検出器で記録し、構造を決定した。その結果、Bio1は3つのHis残基とTyr残基のOHが銅イオンにテトラヘドラルな配位をしている中間体構造が明らかになった。Bio2では、新たに一つの酸素原子のみがTyr残基に共有結合しているドーパキノンを持つ中間体の構造が決定できた。さらに、Bio3で解析した中間体構造は、トパキノンと同じく3つの酸素原子がリングに共有結合しており、付加された酸素原子の一つが主鎖の酸素原子と水素結合していることから、還元型であると決定した。3日間反応を進行させたHoloでは、トパキノンが生成しており反応が完結していることが明らかになった。Bio2からBio3への過程およびBio3からHoloへの過程で環の回転が確認され、これらの結果に基づき、詳細なトパキノン生成の反応機構について明らかにした。
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