一本のDNA2重鎖上でおこる転写反応をリアルタイムで観察するために、まず、DNA鎖を顕微鏡下で常に引き延ばされた状態に固定する方法を開発した。λファージDNAの一端にビオチンを付加し、ストレプトアビジンを介してこのDNA端にビオチンコートされた直径1ミクロンのプラスティックビーズを結合する。レーザートラップ法を用いて、プラスティックビーズと結合したDNA鎖の一端を捕獲する。溶液中にDNA2重鎖特異的に結合する蛍光色素YOYO1を入れると、溶液中におけるDNAのふるまいが観察出来るが、通常水溶液中では、DNAはそのブラウン運動によって、縮んで観察される。このDNA鎖を常に引き延ばされた状態に固定するために、レーザートラップで一端を捕獲したDNA鎖を定常的な溶液流のなかにおいた。定常的な水流は、実験溶液を充填したピペットの開口端を溶液中に導入することによって行った。水流の調節は静水圧によって制御した。このように引き延ばされたDNA2重鎖をつかって、DNAヘリカーゼRecQによる2重らせん解きほぐし過程を可視化することに成功した。蛍光色素YOYO1は、2重鎖DNAに結合して強い蛍光を発するが、DNAヘリカーゼによって解きほぐされた1本鎖DNAからは解離するため、解きほぐされたDNAは見えなくなる。このためヘリカーゼによるDNA2重鎖の解きほぐし反応が進むにしたがって、YOYO1によって染められたDNA2重鎖の長さが短くなる。同様の手法を用いて今後は、転写反応にともなってDNAのときほぐし反応をおこなう大腸菌RNAポリメラーゼを用い、一本のDNA2重鎖上でおこる転写反応をリアルタイムで観察する予定である。
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