本研究開始前に、大腸菌のLactose RepressorであるLaclタンパク質がtrans-translationの標的となることを見い出している。lacオペロンのオペレーターの一つ03がlaclのORFと一部重なっており、そこに結合したLaclが転写伸長を阻害して終止コドンを持たないmRNAが生じ、その3'末端がtrans-translationの標的となっていた。本研究では、laclの最後のコドンを終止コドンに置き換えてC末端の1アミノ酸を欠くLaclを作らせると、高効率でtrans-translationが見られることを発見し、その分子機構を解析した。C末端の1アミノ酸を欠くLaclにおいては、trans-translationは終止コドンに相当する箇所で起こっていた。この高効率のtrans-translationはmRNAの切断が主な要因では無かった。laclの最後の数コドンの部分に塩基置換を導入したところ、アミノ酸の置換を引き起こすような塩基置換の場合、一塩基の置換でもtrans-translation効率が大きく減少したのに対し、同義コドンへの置換は、複数個の塩基置換を導入してもtrans-translation効率を下げなかった。また、C末端の1アミノ酸を欠くLaclの最後尾のアミノ酸配列Leu-Glu-Ser-Glyを他のタンパク質のC末端に融合したところ、やはり高効率のtrans-translationが観察された。これらの結果から、ポリペプチド鎖の最後のアミノ酸配列Leu-Glu-Ser-Glyが、高効率のtrans-translationを引き起こす主要な要因であることが示され、リボソームとLeu-Glu-Ser-Gly配列との相互作用がリボソームの構造に変化をもたらし、trans-translationを引き起こすという機構の存在が示唆された。
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