研究概要 |
DNA損傷の多くは、正常な塩基対合を妨げることによりDNA合成を阻害することが知られている。ところが最近、これらの損傷DNAを鋳型として、効率よくDNA合成を行う特殊なDNAポリメラーゼ(損傷乗り越え型DNAポリメラーゼ)が多数発見された。この損傷乗り越え型DNAポリメラーゼは原核生物から真核生物まで広く保存されており、DNA複製の停止を回避するために重要な機能を担っていることが明らかとなってきた。 申請者は、哺乳類の損傷乗り越えDNA合成の分子機構を明らかにするために、損傷乗り越え型DNAポリメラーゼの一つであるREV1遺伝子を同定し、その機能解析を行った。ヒトREV1遺伝子は1250アミノ酸残基からなるタンパク質を、マウスRev1遺伝子は1249アミノ酸残基からなるタンパク質をコードすることが分かった。REV1/Rev1遺伝子の発現をノーザン法により解析したところ、観察した臓器すべてに発現を認めた。ヒトでは、脾臓、前立腺、精巣、卵巣に強い発現を、マウスでは、心臓、骨格筋、精巣で強い発現を認めた。次に、REV1/Rev1タンパク質の生化学的解析を行うために、これらの遺伝子を大腸菌で過剰発現させた後、各種クロマトグラフィーによってREV1/Rev1タンパク質を精製した。REV1/Rev1タンパク質の酵素活性をプライマー伸長反応により測定したところ、これらのタンパク質は鋳型のグアニンに特異的にdCMPを重合するdCMP転移酵素であることを証明した。次に、REV1/Rev1タンパク質の損傷乗り越えDNA合成活性を、,ウラシル残基と脱塩基部位を鋳型に持っモデル基質を用いて測定した。脱塩基部位は鋳型塩基が欠落した構造のために複製型DNAポリメラーゼによるDNA合成を強く阻害する。ところがRev1タンパク質は脱塩基部位に対してグアニンと同程度の効率でdCMPを取り込むことが明らかとなった。Rev1タンパク質のこの酵素活性が、損傷を乗り越えてDNA合成を行うための重要な機能であると思われる。 さらに、ヒトREV1タンパク質については、多数の欠失型タンパク質を作成し、dCMP転移活性と、DNA結合活性に必要な領域を同定した。また、マウスRev1タンパク質については、ゲル濾過クロマトグラフィーとショ糖密度勾配遠心法を用いて、物理化学的性質を決定した。
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