Drosophilaの精子形成時のミトコンドリア(mit)形態変化に機能するGTPase、FZOのホモログとして、ratから2つのcDNA(ratFZ01A、FZ01B)を単離した。これらはお互いに63%、Drosophilaとどちらも約30%の相同性を持っていた。特異的抗体を用いて分布を調べたところ、どちらもmit外膜に存在しており、また脳ではAが、心臓と精巣ではBが強く発現しており、組織特異的な分布をしていた。これらのmit形態調節への関与とその機能分担を調べるため、野生型またはGTPase不活型のFZOをHeLa細胞に発現させた。FZ01Aの発現細胞ではmit形態に大きな変化は見られなかったが、変異型FZO1Aの発現によりmitがフラグメント化すること、電顕観察において2つのmit外膜が接触しその領域にFZO1蛋白質が濃縮されていたことから、mit融合が阻害されることにより外膜同士が接触した状態で停止していることがわかった。このような高等動物細胞mitの融合中間段階が観察されたのは初めてである。一方同様の変異を持つFZ01Bの発現では上記の現象は観察されなかったが、野生型FZO1Bの発現によりmitのネットワーク構造が極端に活性化された。このネットワーク構造にはmit外膜蛋白質は存在するが内膜蛋白質は存在しないことから外膜の伸張が強く活性化されていることが明らかとなった。以上の結果から2つのFZO蛋白質は異なる機能を持つことが示唆された。アイソフォーム特異的な効果を比較するため細胞に共発現させたところ、変異型FZ01Aによるmit融合阻害はFZO1Bの共発現によってGTPase活性依存的に回復し、またFZO1Bによる外膜伸張も野生型FZO1Aによって阻害された。これらの結果から2つのFZ01蛋白質は細胞内で協調的にmit形態調節に機能しており、そのバランスによってmit形態が変化しうることが示された。組織によって特徴的な形態を持つmitの形態を2つのFZO蛋白質が調節している可能性が考えられ、さらなる解析によって細胞分化や細胞応答における調節機構が解析しうると考えている。
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