研究課題
ES細胞は、多分化能をもったまま培養可能な唯一の幹細胞であり、再生医療や遺伝子治療への応用が期待されている。しかし、マウスにおいてはLIF(leukemia inhibitory factor)の培地中への添加により、ES細胞を未分化な状態に保ったまま培養することが可能であるが、ヒトをはじめ、他の動物種においては、その効果がみられず、ES細胞の樹立自体が非常に困難を極めている。また、LIF以外にもES細胞の未分化状態を維持することのできる因子が存在することがLIF欠損マウスの細胞を用いた実験から示されており、そのような因子を同定することは、今後の再生医療の実用化にも大きな貢献をするものと考えられる。現在、マウスES細胞を用いた実験から、LIFと、その下流のgp130-Stat3の経路、さらに転写因子Oct-3/4がES細胞の未分化状態の維持に重要な役割を担っていることが示されているが、Oct-3/4とLIFのシグナル伝達経路とがどのような関係にあるのかについては不明であり、また、Oct-3/4がES細胞内で機能するためには、共役する因子の存在が必要であることもわかっている。そこで我々は、Oct-3/4と共役する因子を同定することで、LIFのシグナル経路とOct-3/4とを関連付けるような細胞内シグナル伝達経路、あるいはES細胞の未分化状態の維持に必要な新規の経路を見出すことを目的とした。未分化細胞特異的に発現の見られるRex-1遺伝子のプロモーター領域にはOct-3/4が結合するが、そのすぐ近傍にRoxと名づけられた未知の因子が結合することがわかっている。この因子を等電点電気泳動と、SDS-PAGEとを組み合わせることによって蛋白精製により同定した。得られたペプチドの内部配列をLC-MASによって調べ、対応する遺伝子を同定した。現在この因子の発現をsiRNAを用いて抑制し、ES細胞の未分化状態にどのような影響がでるかについての検討を行っている。
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