1.Dppシグナル伝達経路におけるp38 MAPキナーゼの作用位置を調べるために、Dppシグナル伝達経路上の各因子の恒常的活性化型蛋白質を発現するショウジョウバエ系統をそれぞれ確立し、各々においてp38 MAPキナーゼの活性を阻害し、表現型に与える影響を調べた。この遺伝学的手法は、エピスタシス・テストと総称されるもので、伝達経路上のある因子の位置がp38 MAPキナーゼの作用位置よりも上位であれば、p38 MAPキナーゼの阻害効果が期待され、下位であれば、p38 MAPキナーゼの阻害効果は期待されないことから、互いの位置関係を類推できる。その結果、p38 MAPキナーゼの阻害効果は、Dppレセプター、シグナル伝達因子Smad、転写因子Shnのいずれを活性化させた場合においても観察でき、p38経路が下流域から派生していることが分かった。 2.既に申請者らが示したように、哺乳類の活性化型p38 MAPキナーゼに特異的な抗体が、ウェスタンブロット上で、ショウジョウバエの活性化型p38 MAPキナーゼも特異的に認識できる。この抗体によりショウジョウバエの組織染色が可能な条件を探し出し、野生型ショウジョウバエあるいは各種Dppシグナル伝達経路突然変異体の組織を染色して、p38 MAPキナーゼ活性化経路がDppシグナル伝達経路中のどこから派生してきているものかを推定しようとした。残念ながら現在までに活性型p38をうまく検出できる条件は見つからなかった。さらなる抗体調製を進行中である。 3.MKK3キナーゼ突然変異体は胚致死であるが、ヘテロ接合体発生途上で相同染色体間の体細胞組み換えを誘発し、モザイクを作ることにより、成虫形態発生におけるMKK3キナーゼの機能を調べることができる。しかしこの方法では、MKK3キナーゼのDppシグナル応答への関与を明確化することはできなかった。
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