エンドセリン-1(ET-1)/ET-A受容体(ET-AR)シグナルは、鰓弓形成に関与する頭部神経堤細胞の発生に重要な役割をしているが、その分子機序については不明な点が多く残されている。本研究では、この疑問を解明するためET-ARプロモーター(1.7kb)の下流にGFPをつないだトランスジェニックマウス(ET-ARp/GFP Tg)を作製し、胎生期におけるET-ARの発現部位の解析を行なった。その結果、胎生8.0-9.0日胚の神経上皮においてGFPの発現が強く認められ、同時に頭部神経堤細胞の第一鰓弓への移動が観察された。また、胎生9.5日以降の胚では神経管でのGFPの発現は消失していたが、第一鰓弓においては弱いながらもその発現は維持されていた。胎生後期においては、腸管膜、胎盤等の血管に強いGFPの発現が認められた。これらGFP陽性細胞をソーテイングにより単離、ET-AR及び各種マーカー遺伝子(神経堤細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞)の発現をRT-PCRにより解析した結果、鰓弓及び血管に存在するGFP陽性細胞はそれぞれ神経堤細胞および血管平滑筋細胞であることが示唆された。 ついで、神経堤細胞の発生におけるET-1/ET-ARシグナルを解明するため鳥類レトロウイルス受容体TVAを用いたET-AR発現細胞特異的遺伝子導入システムの開発を試みた。具体的には、ET-ARp/GFP Tgマウスでその発現パターンが同定されたET-ARプロモーターを用い、それによって発現が制御されるTVA Tgマウスを樹立した。このマウスの(1)胎仔線維芽細胞系(2)鰓弓器官培養系(3)全胚培養系におけるRcasGFPウイルス感染による遺伝子導入効率を検討した結果、すべての系においてGFPの発現が観察され、その有用性が示唆された。今後、このシステムを用いて神経堤細胞の発生におけるET-1/ET-ARシグナルの解析を進めていく。
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