体節の前後極性の形成機構を探るためDll1とMesp2の遺伝学的相互作用を解析した結果、Dll1がDll1自身とMesp2の発現を誘導し、Mesp2がDll1の発現を抑制するというフィードバックループが、前後極性の繰り返しパターンの形成に必須であることが示唆された。我々は既にMesp2ノックアウトマウスではMesp2自身(Mesp2-LacZ)の発現が前方に拡がり、それがDll1の発現の拡がりと一致することを見い出していたが、このことは上の遺伝的カスケードで説明される。またDll1とMesp2のダブルノックアウトマウスでは体節形成領域にDll1-LacZの発現もMesp2-LacZの発現もほとんどみられないことも、これを支持している。次に体節の前後極性のマーカー遺伝子の発現について検討した。後半部のマーカー遺伝子Uncx4.1はこれまでDll1の下流に位置づけられており、我々もMesp2はDll1の発現抑制を介してUncx4.1の発現を抑制していると考えてきたが、今回Mesp2はDll1とは独立にUncx4.1の発現を直接抑制していることが明らかになった。さらにDll1とPS1の遺伝学的相互作用を解析した結果、Dll1は前半部と後半部の両方の形成に必要であり、PS1ノックアウトマウスにおける前方化は、Dll1の機能を前提としていることが明らかになった。PS1はDll1とMesp2の機能を正常に局在させる役割を果たしていると考えられた。 またNotchシグナリング遺伝子群と分子時計の関係については、各遺伝子の発現領域の位置関係とその変化を詳細に解析した結果、Mesp2とDll1の発現は、まず1体節分以上の幅広い領域で重なっており、次いで共に前方に縮小し部分的に重なった状態になり、最後にMesp2は前半部に、Dll1は後半部にと分離するという複雑なパターンをとると考えられた。
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