近年アストロサイトが外傷や低酸素負荷などのストレスに反応し、種々のサイトカイン等を産生することや、損傷脳においてギャップ結合の透過性に変化がみられることが報告されているが、ギャリップ結合の透過性と遺伝子発現を調節する分子機構は未だ明らかでなかった。本研究では、ギャップ結合蛋白の遺伝子発現を調節する分子機構、さらにはリン酸化等によりギャップ結合の透過性を調節する因子を同定することにより、アストロサイトのギャップ結合を介する情報伝達の意義を明らかにすることを目的とした。 申請者はこれまでに、アストロサイトのギャップ結合を構成するconnexin-43(Cx43)タンパク質の細胞内領域にMAPKによる特異的リン酸化部位があることを見出し、bFGFやEGFなどの増殖因子がMAPKの活性化によりCx43のCa^<2+>透過性を減少させることを、Ca^<2+>蛍光指示薬の一つであるFra-2を用い明らかにした。また、これらの増殖因子は、MAPKの活性化を介して、Cx43遺伝子の転写を抑制し、アストロサイトにおけるCx43タンパク質の発現を低減することを、MAPKの阻害剤をアストロサイトに投与することにより示した。 BFGF及びEGFはアストロサイトの増殖を促進するとともに、原形質性アストロサイトから線維性アストロサイトへの形態変化をもたらす。今回申請者により、増殖因子がMAPKの活性化を介してギャップ結合の発現を低減することが示されたが、ギャップ結合の発現の抑制はアストロサイト間の細胞接着を解消する一因となり、C6等のグリオーマ脳腫瘍細胞株では、ギャツプ結合の発現が低減していることが報告されていることから、筆者の研究が今後脳腫瘍細胞の増殖抑制研究の端緒となることが期待される。
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