既にクローン化しているreelinおよびdisabled-1(dab1)遺伝子を利用し大腸菌に発現させたReelinおよびDab1部分タンパク質をウサギに免役し、両者に対する抗血清を得た。これらの抗血清は、マウス脳のウェスタンブロットあるいは免疫組織化学において、ReelinおよびDab1タンパク質を認識した。次にin situハイブリダイゼーション(ISH)法により、正常マウス嗅球におけるreelinおよびdab1発現細胞を検討した。reelinメッセンジャーRNA(mRNA)は、僧帽細胞において最も強い発現が見られ、傍糸球細胞などにも発現が認められたが、顆粒細胞では発現はほとんど認められなかった。一方、dab1 mRNAの発現は、顆粒細胞において最も顕著であった。次に、マウス成獣の片側鼻腔内に硫酸亜鉛溶液を投与して嗅上皮および嗅細胞を破壊し嗅球への嗅覚刺激入力を遮断し、reelin遺伝子の発現に与える影響をISH法により検討した。対照標本として処理動物の健常側ならびに未処理動物を用いた比較の結果、硫酸亜鉛処理による嗅球への脱入力により、嗅球僧帽細胞におけるreelin mRNA発現量は著しく減少した。発現の減少は、脱入力直後から検出され、約3週間にわたって減少し続けたが、その後回復し始め、約6週後には正常レベルにまで回復した。reelin発現の減少および回復の過程が嗅神経の消失、再生の過程と一致するかどうかを、硫酸亜鉛処理した動物の嗅神経軸索をトレーサーによる順行性標識法により可視化した。その結果、硫酸亜鉛処理による嗅神経軸索の消失、再生の経過は、先に示したreelin mRNA発現の減少、回復過程と良く一致していた。この結果は、脱入力により神経活動が阻害された僧帽細胞において、何らかの理由でreelin遺伝子の発現がダウンレギュレートされることを示唆する。
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