この研究の目的は様々な増殖因子やサイトカインのシグナル伝達経路を制御するチロシン脱リン酸化酵素SHP2の、神経幹細胞の増殖・分化やニューロンの生存における機能について明らかにすることである。 1.申請者はSHP2の神経幹細胞における機能を調べるため、SHP2のドミナントネガティブ変異(DN変異)を神経幹細胞で過剰発現するトランスジェニックマウス(Tgマウス)を作製し、既にTgマウスの脳が虚血に対して脆弱であることを明らかにしている。今回はTgマウスにおける神経幹細胞の増殖能をin vitroで調べるために、胎生14日の胎児脳で将来線条体になる部位を取り出し培養しneurosphere形成率を検討した。EGF(epidermal growth factor)単独、あるいはEGF+bFGF(fibroblast growth factor)存在下では、野生型マウスに比べTgマウスにおいてneurosphere形成率が有意に増加していた。一方bFGF存在下では野生型マウスとTgマウスで形成能に差は認められず、増殖因子特異的な増殖能の違いを示した。 2.ニューロンにおけるSHP2の機能を明らかにするために、Cre/loxPシステムを用いてニューロン特異的にDN変異を発現させるTgマウスの作製を開始した。pCAGGSプロモーターの下流にLoxPに挟まれたEGFP(enhanced green flourescent protein)を挿入し、その下流にSHP2のDN変異を導入したコンストラクトを作製した。培養細胞においてコンストラクトが理論通りに働くことを確かめた後に、コンストラクトを精製し受精卵に注入した。それらを偽妊娠マウスの卵管に移植し全15匹のマウスが出生した。今後Tgマウスであるか否かの確認を行いライン化した後にCreを発現するマウスと掛け合わせ解析を行っていく。
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