この研究の目的は、様々な増殖因子・サイトカイン・細胞接着物質等のシグナル伝達を制御するチロシン脱リン酸化酵素SHP-2の、脳神経幹細胞の増殖・分化とニューロンの生存における機能を明らかにすることである。このためCre/loxPシステムを用いて組織特異的にSHP-2のドミナントネガティブ変異(DN変異)を発現させるトランスジェニックマウスを作製した。 pCAGGSプロモーターの下流に、loxPに挟まれたEGFP(enhanced green fluorescent protein)を挿入し、その下流にDN変異を導入したコンストラクトを作製し、マウス受精卵に注入した。それを偽妊娠マウスの卵管に移植し全31匹の産子を得た。そのうちサザンブロットにて6ラインがトランスジェニックマウスであることが判明した。6ラインのうち3ラインは次世代でトランスジェニックマウスは生まれずその後の実験に用いることはできなかった。残りの3ラインを、主に神経、心臓、筋肉などにCreリコンビナーゼを発現しているpCAGGS-Creマウスをかけ合わせてその表現系を観察した。ライン#3-2:pCAGGS-Creをホモ接合体に持つマウスとかけ合わせたところ、3腹12匹のうち、ダブルトランスジェニックマウス(DN変異を発現)は1匹しか生まれず、多くが胎内で死亡している可能性が高い。ライン#7-5:ダブルトランスジェニックマウスはメンデルの法則にしたがって生まれてくるがオス3匹中1匹が3ケ月で死亡し(原因不明)、一匹に毛並み不良・外性器異常・手の筋力低下がみられている。ライン#8-4:ダブルトランスジェニックマウスのオス4匹中1匹に外性器異常がみられた。これまでの結果からSHP-2のDN変異を導入したマウスでは、原因はまだ不明であるが胎内/生後の死亡や外性器異常等が生じてくる可能性が高い。
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