我々は以前、成長円錐へ局所投与したセマフォリン3A(Sema3A)が細胞体付近の軸索輸送を一過的に亢進することを見出した。このことは、成長円錐で受容した情報が細胞体付近まで伝達されることを示唆する。本年度はSema3Aによる成長円錐での応答(退縮)と細胞体付近での応答(軸索輸送)の情報伝達を比較、検討した。まず、成長円錐退縮応答に対する種々の阻害剤の効果を検討したところ、百日咳毒素、チロシンキナーゼ阻害剤ラベンダスチンA、及びcyclin-dependent kinase 5(Cdk5)阻害剤オロモウシンが顕著な阻害効果を示すことを明らかになった。また、Srcファミリーの一員であるfynあるいはcdk5欠損マウスにおいてSema3A応答の減弱を見出した。Cdk5活性化に必要なTyr#15リン酸化認識抗体はSema3A投与後成長円錐のみを一過的に濃染した。同時に、微小管結合タンパク質タウのCdk5によるリン酸化部位認識抗体は同様に成長円錐を一過的に濃染した。このことは、成長円錐内で局所的にFynとCdk5が活性化することを示唆する。一方、Sema3Aによる軸索輸送亢進作用は、退縮応答と同様に、ラペンダスチンAとオロモウシンで阻害されることを見出した。また、fyn欠損マウスにおいて同作用の減弱を見出した。しかし、百日咳毒素は軸索輸送の亢進作用を阻害しなかった。これらの結果から、退縮と軸索輸送に共通な経路とそれぞれに特化した経路の存在が示唆された。両方に共通の経路を介して成長円錐と細胞体が情報交換をする可能性がある。 また、両方の経路に共通するCdk5は細胞死に関わることが示唆されており、細胞死シグナルの成長円錐から細胞体への伝達機構が注目される。現在、Sema3Aによる神経細胞死のアッセイ系を構築しており、今後、細胞死シグナルの伝達やカスパーゼの輸送などを検討していく予定である。
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