我々は昨年度、神経回路ガイド分子であるセマフォリン3A (Sema3A)の情報伝達にチロシンキナーゼFynとセリン・トレオニンキナーゼCak5が関与することを報告した。今年度研究を遂行できたのは4〜8月の5ヶ月間であったが、その間の進展を報告する。我々はsema3A(-/-)とfyn(-/-)マウスの解析の結果、これらの遺伝子が大脳皮質第5層錐体細胞の樹状突起の伸長方向を決定するのに重要であることを見出した。このことより、神経軸索だけでなく、樹状突起におけるSema3Aの役割が注目された。培養海馬神経細胞にSema3Aを投与すると、軸索のみならず樹状突起においても細胞内粒子輸送の亢進が起こることが新たに見出された。この樹状突起における輸送の亢進は、Sema3Aを樹状突起に局所投与した場合には見られず、成長円錐に局所投与後約10分の遅れのあと観察された。軸索輸送の場合はSema3A刺激後すぐに亢進が始まることから考えると、Sema3Aが成長円錐を刺激した後、その情報が軸索、細胞体を通り樹状突起に達するまで10分程度かかることになる。現在、成長円錐から樹状突起への情報伝達を解析中である。また、Sema3A受容体であるプレキシン、ニューロピリンとGFPとの融合タンパク質を用い、軸索中での輸送を可視化し、fluorescent recovery after photobreach (FRAP)法にて解析することに成功した。まだ予備的なデータではあるが、Sema3A刺激によりニューロピリン-GFP融合タンパク質の逆行性輸送が亢進することが明らかとなった。今後、この方法を用いてSema3A刺激を受けた受容体がどのようにして軸索内を輸送され、情報を伝達するかを研究する予定である。
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