オリゴデンドロサイト(以下OL)は神経管腹側の限られた神経上皮細胞から発生し、分裂を繰り返しながら中枢神経全体に移動すると考えられている。我々はこの腹側特異的OL発生が、脊髄の腹側から産生されるShhによる分化促進に加え、背側から産生される因子によって著しく分化抑制されることを明らかにしてきた。我々はこのOL分化抑制因子の候補としてWntファミリーに着目した。胎生12日マウス胚の後脳及び頸髄の腹側を小片培養し、培養液にWnt3a蛋白質を添加するとO4抗体で染色される未分化オリゴデンドロサイトの数が減少した。胎生14日マウスの脊髄初代分散培養細胞に、Wnt3aを発現させたL cellの培養上清を添加したところ、未分化OLであるO4陽性細胞の数が減少することが分かった。そこでOL-type2 astrocyte前駆細胞株である均一なCG4細胞にWnt3a上清を添加したところO4陽性細胞の数が減少したことから、Wnt3a上清による効果は他の細胞を介することなくOL前駆細胞に直接作用して引き起こされたと考えられる。また、Wntシグナリングの下流標的である活性化型β-catenin-LEF-1を強制的に発現するレトロウイルスを調整しCG4細胞に感染させたところ、OLへの分化が有意に抑制されWnt3a上清添加と同様の変化が得られた。以上の結果からWnt3aは直接OL前駆細胞に作用し、前駆細胞からO4陽性オリゴデンドロサイトへの分化のステップを抑制していることが示唆された。
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