パーキンソン病はアルツハイマー病に次いで罹患人口の多い神経変性疾患であり、黒質ドパミン作動性神経細胞の欠落を特徴とする。本疾患は大部分が孤発性であるが5〜10%は遺伝性の形態をとり、その原因遺伝子を解析することがこの研究の端緒となっている。常染色体劣性若年性パーキンソン病(AR-JP)の原因遺伝子産物Parkinは、1998年に慶応大・順天堂大のグループによりがポジショナルクローニングで同定された。 我々はParkinがユビキチン-プロテアソーム経路のubiquitin-ligase(E3)としての活性をもつこと、パーキンソン病タイプの変異体にはこの活性がないことを報告した。さらに、小胞体に折り畳み異常タンパク質が蓄積するストレス(unfolded protein stress ; UPS)を神経系細胞に加えると、ParkinのmRNAおよびタンパク質の発現量の増加すること、UPSによる神経細胞死がParkinの過剰発現により抑制されることを示した。 次に、Parkinの基質Pael receptor(Pael-R)を発見した。Pael-Rを神経系培養細胞内で過剰発現させると、高度なユビキチン化とともに細胞死が観察された。この原因はPael-Rが折り畳み効率の低いタンパク質であり、過剰発現により不溶化したPael-Rが小胞体および細胞質に蓄積しUPSを引き起こすからであると考えられた。Pael-Rの過剰発現による不溶化Pael-Rの蓄積および細胞死は、野生型Parkinの共発現により抑制された。さらに、AR-JP患者脳においてPael-Rの蓄積が有意に認められたことから、Parkinの変異による黒質ドパミン作動性神経細胞の変性・脱落は、折り畳み異常Pael-Rの小胞体内への蓄積によるUPSによる神経細胞死によることが示唆された。
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