本研究の目的は、近年、蛋白質の構造解析に最も重要かつ効果的な手段の一つとなった質量分析法を用い、神経機能において、情報伝達やネットワーク形成、神経伝達の可塑性における重要性が多く報告されているが、未だ完全な分子機構が解明されていないと考えられる神経シナプス結合部のシグナル伝達機構を、その集積蛋白質の同定、またそれらの分子間相互作用、リン酸化蛋白質の解析によるリン酸化ネットワークの解析により解明することを自的としたものである。本年度は、脳神経シナプス結合部の中でも、さまざまなシグナル伝達分子が集積しており、その構成分子間の相互作用の制御により神経伝達の可塑性を制御していると考えられるシナプス後肥厚postsynaptic density(PSD)をとりあげ、その構成成分の同定を行った。2次元電気泳動による分離はやや不十分であった為、一次元で分離、LC/MS法により蛋白質を分離同定する方法により構成蛋白質の同定を行った。その結果、新規のものを含め、これまでシナプス後肥厚への局在が報告されていない多くの蛋白質が同定された。また、プレシナプス結合部分に関しても現在、構成分子の同定を行っている。同定された蛋白質のいくつかについては、抗体を作成し、細胞内局在等を検討する予定である。また、シナプス後肥厚に局在がみられ、さらにリン酸化が見られた蛋白質の一部に関しては、その部位特異的リン酸化抗体を作成した。ラット脳神経海馬の初代培養細胞などの系で、この抗体を用いた蛍光染色によりその細胞内局在の解析を行っている。
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