金管楽器奏者は顔面筋肉の緊張と呼気で唇を振動させ演奏を行う。そして過度の反復練習を行うことにより口唇や頬筋肉部に痙攣などの局所失調症を起こす危険性があることが知られている。本研究では脳の可塑性に関して、局所失調症を持つ患者と健常者を比較し、体性感覚野皮質上での違いを確認することを目指している。本年度は刺激方法の検討、ならびに解析ソフトの構築、そして患者と健常者それぞれ4名からの脳磁界計測を行った。 まず刺激として電気刺激に比べ、より自然な刺激を提示できるように空気圧で膜表面が膨らむ刺激装置を採用した。口唇部局所失調症を患っている金管奏者に対して、左右どちらか一方の上の下口唇部および同側の手指腹部にこの刺激装置を取り付け機械的な刺激を提示した。刺激と反対側脳半球からの脳磁界反応をBti社製37チャネルSQUID磁束計により記録した。30分程度の休息後、反対側の口唇と手指腹を刺激して同様の計測を行った。健常者のデータと比較検討を行い、ピアニストの手指で見られるような等価電流双極子の活動に関して可塑性が生じているかどうかを検討した。 現在までのところ、刺激直後から30ミリ秒〜60ミリ秒に出現する体性感覚誘発脳磁界を観測し、解析したがデータ数が少ないためか患者グループと健常者グループ間に体勢間隔皮質上での活動位置やそのモーメントの大きさに有意な差は観測されなかった。統計的な検討を行うために、被験者の追加が必要であることが確認された。
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