我々は、知覚した外界の事象のみならず、我々自身が考えた事象も記憶することができる。知覚された外界の事象も、我々自身が考えた事象も、両者とも脳内に記憶を生成すると考えられるが、我々は後になって、それが実際に起こった外界の事象であったのか、単に我々が考えた事象であったのかを区別することができる。この能力は現実監視(reality monitoring)と呼ばれている。この区別にはどのような手がかりが使われているのだろうか。本研究では、事象関連機能的核磁気共鳴画像法を用いて、外界の事象に対応する脳内の記憶痕跡と、イメージしただけの事象に対応する脳内の記憶痕跡を同定することを試みた。実験は、二段階からなる。第一段階で、被検者は漢字の読みだけを聞かされるか、読みを聞かされると同時にその漢字を見せられ、その漢字の画数を報告する。漢字は6-13画のものを使い、漢字を見せたもの、見せないものそれぞれ80個ずつ使用した。第二段階では、被検者は第一段階の漢字の読みだけを聞かされ、その漢字を見たか、イメージしただけかを報告する。160個の漢字それぞれに対応して160試行からなり、1試行は5秒。12人の被検者にこの課題を課して、第二段階での脳の活動を機能的核磁気共鳴画像法で計測した。そのパラメータとしては、外部磁場1.5テスラ、TR=4秒、TR=50ミリ秒、フリップ角=90度、1ボクセル=4x4x6mm、スライス数20枚。解析にはSPM99を使用した。その結果、左の海馬傍回において、第一段階で見た漢字に対して、単に音を聞いただけの漢字に対してよりも強い活動が第二段階において計測された。このことから、左の海馬傍回は、実際に視覚刺激として見た事象の記憶に関連しており、それが外界の事象と、我々が考えた事象を区別するのに役立っていると考えられる。
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