これまでに代表者らは1)成体マウス脳において維持型DNAメチル化酵素(Dnmt1)が比較的多量に発現していること、2)神経細胞においてそのDnmt1の大部分が細胞質に局在していることを明らかにしていた。そこで本課題では、神経細胞におけるDnmt1の機能の一部を明らかにする目的で未分化状態の培養神経細胞N1E-115においてDnmt1を過剰発現させたとき、分化誘導に与える影響を調べることを目的とした。文献検索などから今のところDnmt1の安定過剰発現細胞株の報告はまず見あたらず、Dnmt1の活性過剰が細胞に与える影響が大きいことが予想された。そこで本課題ではテトラサイクリンの有無で導入した遺伝子の発現をオン・オフ可能なTet-Offの系を、レトロウイルスベクターを使って培養細胞に導入し、安定過剰発現細胞株の樹立を計画した。導入した遺伝子はmyc-tagをN末に連結したマウスDnmt1の全長cDNAである。 現在までのところ、目的の培養神経細胞N1E-115への遺伝子導入が遅れており、安定過剰発現株のクローニング中である。一方、対照用としてマウス繊維芽細胞のC3H10T1/2及び分化誘導可能な筋芽細胞C2C12においても同様の安定過剰発現株を作製し、既にそれぞれ1クローンずつが樹立できている。現在性状解析中であるが、プレリミナリーな結果ではどちらの細胞株でもテトラサイクリンの除去でDnmt1の発現を誘導しても少なくとも2日間の間は光学顕微鏡下における形態学的な変化は全く観察できていない。 本課題で用いたレトロウイルスベクターとテトラサイクリン誘導系のシステムにおける安定発現株の取得効率は、繊維芽細胞、筋芽細胞などのdoubling timeの比較的短い細胞で20-30%程度と見積もられた。やはりレトロウイルスベクター系での安定発現株の取得効率の高さが確認されている。ただし、ウイルスの感染の段階をもう少し工夫すると取得効率はさらに上がる可能性がある。
|