研究概要 |
これまで大脳皮質聴覚野の研究の多くは麻酔下の動物において行われてきた。そのため、得られた結果は必ずしも正常な状態での聴覚信号処理過程を示したものであるとは言えない。従って本研究ではまず覚醒状態のネコの大脳皮質一次聴覚野(AI)から単一ニューロン活動を記録し、音刺激に対する応答を解析した。音刺激には128Hzから16kHzまでの125個の純音を用い、ランダムに0.5秒間、ニューロン活動記録側と反対側の外耳道開口部から一定距離に設置したスピーカーより出力した。刺激に対して興奮性応答を示したAIニューロンの発射活動の時間経過を調べた結果、tonic cell, phasic-tonic cell, phasic cellの3つの型に分類できることが明らかになった。tonic cellは純音刺激中に持続的活動を示し、刺激期間中全てにわたって有意に発射活動を増加させた。phasic-tonic cellは刺激中に持続的発射活動を示すとともに刺激の開始に一過性の高頻度発射を示した。phasic cellは刺激の開始あるいは終わりのみに一過性の発射活動の増加を示し、音刺激持続中は発射活動を示さなかった。従来の麻酔下の動物での研究において記録されたAIニューロンはこれら3つの型のうちphasic cellと同様の反応を示すものがほとんどであったのに対し、本研究においては記録した半数以上のAIニューロンが純音刺激中すべてにわたって有意に発射活動を増加させた。このことから聴覚信号は覚醒状態の大脳皮質一次聴覚野においては個々のニューロンの発射頻度でコードされていることが示唆された。次年度はこれらAIニューロンが複合音に対してどのように反応するかを調べるとともに、大脳皮質聴覚野ニューロンがピッチ周波数を持つ複合音に対して選択的に反応するかどうかを調べる予定である。上記の成果についてはBrain Research誌上で発表予定(in press)である。
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