平成14年度も13年度と同様に、2匹目のサルを用いて、モンキーチェアにすわらせるトレーニングから開始し、頭部固定用プラットホームの形成手術、眼球運動測定用サーチコイルの眼窩への導入手術、大脳皮質細胞の電気的活動記録用および微小電気刺激用の電極を装着するためのチェンバーをプラットホームに設置する手術を全身麻酔下にて無菌的に行い、滑動性追跡眼球運動を行わせるパラダイムのタスク(ステップランプ)をトレーニングした。電気生理学的手法により前頭眼野を同定したのちに、一匹目のサルと同様に前頭眼野にGABA_Aレセプターアゴニストのムシモールを微小注入し、滑動性追跡眼球運動への影響を観察し比較検討した。 その結果滑動性追跡眼球運動への可逆的な抑制が、一匹目のサルと同様に上下左右4方向すべてにおいて観察された。さらに滑動性追跡眼球運動の適応のパラダイムを用いて適応への影響を観察したところ、適応の抑制が観察された。Initial pursuitに限らずクローズトループの眼球運動にも抑制がみられた。 適応すなわち運動学習の場がどこにあるかについての議論は現在の神経科学のトピックスの一つである。前庭動眼反射では適応の場は小脳片葉であることが示されている。サッケード眼球運動の適応に関しても小脳傍虫部や小脳核の役割が示されている。滑動性追跡眼球運動の適応についても小脳の関与が示唆されている。これらの所見と本研究の結果を考え合わせると、前頭葉眼球運動領域より発せられる運動司令が、運動学習に関与するということが考えられる。
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