研究概要 |
霊長類の運動野は新皮質の中でも際だった細胞構築を見せる部域でありながら、その形成機構はよく分かっていない。本研究は霊長類の領野形成機構及びその進化的な特徴を解明することを目標としている。第一のアプローチは運動野に多く発現する分子として同定したGDF7を軸としたもので、その第一歩として発現分布を細胞レベルで調べることを目指していたが、残念ながらこれは未だに成功していない。northern blotting,競合RT-PCRの両方法で非常に低レベルと予測されていることもあり、組織化学的な解析は非常に困難であると言わざるを得ない。しかしその過程でTSA(tyramide signal amplification)法を用いた高感度光二重in situ hybridization法を確立することができた。この手法を用いれば、さまざまな遺伝子群の共発現を鍵として新皮質を構成するニューロン群をより詳細に調べることができる。さらに別の角度からの研究として、領野分化に関与している可能性のあるさまざまな分子の発現解析を行っている。現在までに100種類以上の遺伝子について発現分布を調べ、そのうちのいくつかはマウス、フェレットでの発現分布と比較を行った。特徴的なのは多くの遺伝子が何らかの層特異性を示すことで、中には第6層にほぼ特異的な遺伝子も存在した。また種間の比較についていえば、ほぼ同じ傾向を示す遺伝子もあれば、発現様式が大きく違うものもあった。現在特徴的な発現を示すものについてより詳細な解析を行っている。こういった遺伝子を分子マーカーとして使うことにより、運動野のみならず新皮質全体に対する理解が深まるものと考えている。
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