CNR分子群は大脳皮質形成機構に関わるReelin分子の多重受容体として機能していることが示唆されており、CNR分子群の分子機能解析により大脳皮質層構造形成機構の一端が明らかにされることが期待される。本研究では、特にCNR分子群の分子多様性の機能を明らかにすることを目的として、(1)CNR遺伝子多重欠損マウスの作製および解析、(2)各CNR特異抗体作製によるCNR分子多様性の機能解析、の2つのアプローチによる解析を行った。(1)CNR分子群のゲノム構造は、T細胞受容体や免疫グロブリンのゲノム構造に類似した遣伝子クラスター構造を形成している。このことからCNR遺伝子多重欠損マウスの作製法としては各CNRの多様性を形成している可変領域2カ所にloxP配列を導入し、Cre-loxP系を用いてCNR可変領域を欠失させることによりおこなった。まず、1カ所目にloxP配列を導入したES細胞よりホモマウスが作製されている。また、loxPの導入されているES細胞に2カ所目のloxP配列を導入し2カ所にloxP配列が導入されているES細胞よりキメーラマウスが3ライン作製されている。現在、ホモマウスの作製を行っており、今後、Creマウスとの掛け合わせにより、CNR遺伝子重欠損マウスを作製し、CNR分子多様性のマウス成体内における機能解析を行う。(2)各CNR蛋白質に対する特異抗体作製は、各CNRで多様性のあるEC2-3領域をGST融合蛋白質として作製し抗原に用いマウスモノクローナル抗体を作製した。また、各CNRで特異的なアミノ酸配列をKLH-ペプチド抗原として合成し抗原にもちい、ラットおよびウサギにおいてそれぞれモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を作製した。マウスモノクローナル抗体においては2種類の単一CNR特異認識抗体が得られている。また、ラットモノクローナル抗体においては5種類の単一CNR特異認識抗体が、ウサギポリクローナル抗体においては12種類の単一CNR特異認識抗体が得られた。これらの抗体を用いた成体マウス脳における免疫染色法での陽性細胞の局在様式は、各CNRに対する特異プローブを用いたin situハイブリダイゼーション法によるCNR mRNAの発現様式とほぼ同様であった。また、生後マウス脳における単一CNR特異抗体を用いた二重蛍光染色の結果、大脳皮質V層の神経細胞において異なる神経細胞にCNR蛋白質が発現していることが示された。今後、作製した各CNR特異抗体を用いて、マウス脳形成過程におけるCNR蛋白質の発現および局在様式の解析を行い、脳形成機構におけるCNR分子群の分子機能の解析を行う。
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