大脳皮質視覚野ニューロンの視覚刺激に対する選択的反応性は、生後発達の一時期(感受性期)の視覚体験に依存して可塑的に形成される。この感受性期は開眼前からの暗室飼育により延長し、延びた感受性期は短期間の視覚体験により終了する。これまでに我々の研究室ではネコやラット大脳皮質視覚野スライス標本を用いて、NMDAチャネルではなくT型Ca^<2+>チャネルの活性化を必要とする電場電位の長期増強は感受性期に限って発生し、生後直後より暗室飼育すると成熟しても長期増強がみられ、その後短期間の正常視覚体験によりその発生も消失することを見いだした。本課題ではこの電場電位の長期増強が興奮性シナプスの変化に起因するかを検討する目的で、まず感受性期(生後20-30日齢)のラット視覚野より作成したスライス標本上の2/3層ニューロンから細胞内記録法及びホールセルパッチクランプ法を用いてシナプス後電位を記録した。抑制性伝達阻害薬を封入した別のパッチピペットを記録細胞近傍におき、抑制性伝達を局所的に遮断した状態で興奮性シナプス後電位(EPSP)を記録した。T型Ca^<2+>チャネル依存性長期増強の誘発に有効な条件刺激を与えると、EPSPの長期増強が誘発された。暗室飼育すると成熟脳(生後60-90日)でも誘発される長期増強もまた興奮性シナプスの変化に起因することを見出した。記録した細胞にトレーサーを注入し細胞内染色することにより長期増強がみられたシナプス後細胞は錐体細胞であることを形態学的に確認した。以上の結果はT型Ca^<2+>チャネル依存性長期増強が視覚反応可塑性の基礎過程である可能性を支持する。
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