ラット(生後2週齢)の視床VPL核に、麻酔下において蛍光ラテックスビーズの注入手術を行った。その数日後、腰部脊髄のスライス標本(厚さ400ミクロン)を作製し、逆行性に標識されたスライス内の脊髄視床路(STT)ニューロンを、蛍光顕微鏡下に同定しこれからパッチクランプ記録を行った。主として深部後角に分布するSTTニューロンから記録を行った。脊髄深層にはμ型オピオイド受容体の存在することが知られているので、この選択的アゴニスト、DAMGO(1μM)を灌流液中に投与し、以下1)-3)のパラメータに関して、その作用を検討した。 1)STTニューロンの活動性の指標として、活動電位をセルアタッチト法により細胞外記録した。自発的に発生する活動電位の頻度は、DAMGOによって減少し、DAMGOを洗い流すと回復の傾向が見られた。 2)ホールセル法によって膜電位を細胞内記録すると、DAMGOによって数ミリボルト以上の過分極が発生し、DAMGOを洗い流すと回復の傾向が見られた。 3)細胞外通電刺激によって興奮性シナプス電位を誘発すると、これによって単発ないし複数の活動電位がSTT、ニューロンに発生した。刺激で誘発される活動電位の個数は、DAMGOによって減少した。また、活動電位発生までの潜時がDAMGOによって延長する場合があった。 上記の結果から、μ型オピオイド受容体の活性化によって、STTニューロンには過分極が引き起こされ、自発的な活動電位の発生も、興奮性シナプスが誘発する活動電位の発生も、ともに抑制作用を受けることが示唆された。
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