ラット(生後2週齢)視床VPL核に、麻酔下で蛍光トレーサー注入手術を行い、数日後に腰部脊髄スライス標本を作製した。逆行性標識されたスライス内の脊髄視床路(STT)ニューロンを、蛍光顕微鏡下に同定し、深部後角に分布するSTTニューロンからパッチクランプ記録を行った。脊髄深層にはμ型オピオイド受容体の存在することが知られている。前年度はこの選択的アゴニスト、DAMGO(1μM)を灌流液中に投与し、その作用を検討した結果、μ型オピオイド受容体の活性化によって、STTニューロンには過分極が引き起こされ、自発的な活動電位の発生も、興奮性シナプスが誘発する活動電位の発生も、ともに抑制作用を受けることが示唆された。引き続き今年度はシナプス入力が誘発する活動電位の発生様式を検討した。 EPSP入力による発火パターン 多くの中枢グルタミン酸作動性シナプスと同様に、STTニューロンに入力するEPSPは、AMPA受容体を介する成分とNMDA受容体を介する成分との両者から成っていた。AMPA受容体依存性スパイクの潜時は4-8msで、NMDA受容体依存性スパイク潜時は10-40msであった。検討した全てのSTTニューロンには、過分極で活性化されるカチオンチャネル(HCNチャネル)活性がみとめられたが、HCNチャネルブロッカーの投与によって、EPSP誘発性スパイクの発火ウインドウが延長したことから、STTニューロン発火ウインドウの設定に、HCNチャネル活性が関与すると考えられた。また一部のSTTニューロンではEPSPの低頻度繰り返し刺激により誘発スパイク数が増加していくWind-upが出現した。 IPSP入力による発火パターン GABAおよびグリシン受容体を介するIPSPを刺激で誘発すると、HCNチャネルが活性化され、その結果リバウンドの脱分極でスパイクが発生した。このリバウンドスパイク潜時は約60-130msであった。
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