生体膜の主成分であるリン脂質極性基を側鎖に有する2-メタクリロイルオキシエチルホヌホリルコリン(MPC)、n-ブチルメタクリレート(BMA)、細胞に対する接着性を強めるためのモノマーユニットとして生分解性のポリ乳酸セグメントを側鎖に有するようなマクロモノマーを合成した。得られたポリマーはコーティング剤として利用可能であった。コーティング後の表面元素分析はXPS測定により行い、リン脂質極性基やポリ乳酸ユニットの存在が示された。また、コーティング表面における細胞接着評価はマウス繊維芽細胞(L-929)を用い、ウシ血清(FBS)存在下にて行った。初期の細胞播種濃度を5×10^4cells/wellとして、24時間後、48時間後の細胞数の定量と細胞形態を観察した。その結果、ポリ乳酸マクロモノマーの導入率を高くすることによって細胞接着数は増加した。培養48時間後における細胞形態はMPCユニットを含まないポリマーでは伸展していたのに対して、MPCユニットを含むポリマーではスフェロイド型であった。このことはMPCユニットの効果によりマテリアル表面と細胞の間の相互作用が緩やかであることを示唆しており細胞に与えるストレスは低減されているものと考えられた。実際にアラマーブルーによる細胞の代謝活動の活性値を計測したところ、従来材料であるポリエステルの2倍程度活性が高かった。このように細胞適合性のモノマーユニットと細胞接着性のモノマーユニットからなるポリマーを設計することにより、新しい組織工学用のマテリアルの創製が可能であった。また、ポリ乳酸セグメントに光学異性体を用いることで、ポリL-乳酸セグメントを有するリン脂質ポリマーとポリD-乳酸セグメントを有するリン脂質ポリマーからステレオコンプレックス形成による組織化により、組織再生用マトリックスが調製可能であることも見出した。
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