本研究では埋め込み式センサを用いずに、左心補助循環中の遠心血液ポンプ駆動信号の一つであるモータ駆動電流波形を継続的に解析することで左心機能の評価を行い、自己心の心機能に応じた知能的な補助循環制御を行うことを目指して研究を行っている。 本年度はモータ駆動電流波形を周波数解析し、自己心心拍数に対応する周波数成分パワーのピーク値(以下、モータ駆動電流周波数解析値)を求めることで、左室内圧で代表される心機能の評価・推定が可能であるか検討した。 評価方法は、1:リザーバ、模擬左心室、コンプライアンスタンク、末梢抵抗からなる一巡回路に、遠心ポンプによる左心心尖部脱血・大動脈送血型のバイパスモデルを付加した模擬循環回路における評価と、2:遠心ポンプによる左心心尖部脱血・下行大動脈送血型補助循環を行った急性動物実験における評価の2方法にて行った。 模擬循環回路による結果より、遠心ポンプ回転数1500-2100rpmの範囲において、左室内圧ピーク値とモータ駆動電流周波数解析値との間に高い相関関係があることが示され、さらに大動脈弁の開閉状態(完全補助/部分補助)に応じて線形相関式の傾きに大きな差異が見られたために、補助状態の判別が可能であると考えられた。しかしながら、モータ駆動電流周波数解析値と左室内圧ピーク値との関係は、特に部分補助状態において大動脈圧に大きく依存し、モータ駆動電流周波数解析値からの直接的な左室内圧の評価には注意を要すると考えられた。また、急性動物実験においても同様な結果が示され、左室内圧の増大に伴いモータ駆動電流周波数解析値が増加する傾向が認められた。 今後は、本研究にて検討したモータ駆動電流周波数解析値を利用した左室内圧の定量下及び遠心血液ポンプ自動制御条件に組み込んだシステムの構築を進めていく予定である。
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