研究概要 |
医療現場で栄養補給や血液浄化などに使われているチューブ,カテーテルの材料として,ポリ塩化ビニル(PVC),ポリウレタンなどがある。しかし,一般にこれら有機高分子は硬度に乏しいため表面に傷がつきやすく,体内で長期にわたり安定に用いることが困難である。従って,時として患者の体内深部に挿入されたチューブ,カテーテルの交換を余儀なくされる。これは患者に多大な肉体的,精神的負担を強いるものであり,患者の生活の質(QOL)を著しく低下させる。そこで,機械的性質に優れた薄膜を有機高分子表面にコーティングできれば,これらの問題点が改善される。 本年度は,機械的性質に優れた酸化チタンを有機高分子(ポリメチルメタクリレート(PMMA)またはPVC)マトリックスにナノレベルで分散した有機-無機ナノハイブリッドの薄膜をゾルーゲル法により合成する条件を調べた。酸化チタンの前駆体であるチタンテトライソプロポキシド(TTiP)と有機高分子(PMMAまたはPVC)を種々の割合でテトラヒドロフラン(THF)に溶解してゾル溶液を調製した。PMMAまたはPVCを含むゾル溶液をPMMAまたはPVC基板にそれぞれコーティングした。これら試料の表面構造を走査型電子顕微鏡(SEM)観察,エネルギー分散型X線(EDX)分光分析ならびに薄膜X線回折(TF-XRD)により調べた。ゾル溶液のTTiP/PMMAまたはTTiP/PVC質量比が2.5以下の場合,表面にクラックのない厚さ約lOμmの均一な薄膜がコーティングできた。TF-XRD測定によれば,いずれの組成においても得られた薄膜は非晶質であった。さらに薄膜表面におけるチタンの分布をSEM及びEDXにより調べると,マイクロメートルサイズのドメインは観察されなかった。従って,酸化チタンが均一に分散された有機-無機ナノハイブリッド薄膜を有機高分子表面にコーティングできることが明らかになった。
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