本研究は培養皿表面の親水・疎水の温度による変化や微細なパターン化により培養心筋細胞の形態制御や移動・重層化を行い、重症心不全に対する移植心筋組織創成のための基盤技術を確立することを目的とした。シート状の心筋細胞シートの作製には、温度応答性高分子イソプロピルアクリルアミドを電子線を用いグラフトした培養皿を用いた。培養温度である37℃では細胞接着性であるが、32℃以下の低温処理にて細胞非接着性となり細胞が脱着、トリプシンなどの蛋白分解酵素使用時のような細胞間接着の解離は起こさず維持されるためシート状の心筋細胞が回収可能となった。この心筋細胞シートを積層化したところ心筋細胞シート間に電気的・形態的な結合が生じ同期して拍動することが示された。本研究においては4層までの積層化を実現、ヌードラットの背部皮下組織にて1年まで拍動を維持し生存することが確認された。また、心筋細胞に配向性を付与する目的で、温度応答性および細胞非接着性表面のストライプパターンの培養皿を作製した。具体的には、温度応答性培養皿上にストライプ状のマスクパターンを使い、高親水性のアクリルアミドをストライプ状に電子線重合した。これにより100μm幅のストライプ状の温度応答性の表面が作製可能となった。このパターン化した表面に心筋細胞を培養したところ、心筋細胞が温度応答性の表面にのみ接着、細胞が一方向にしか伸展できず配向性を獲得した。低温処理を行ったところ、配向した糸状の心筋組織が脱着、長軸方向に収縮弛緩する糸状の心筋組織が再構築された。 今後、本研究の成果を基盤に、培養皿内に多数のストライプパターンを作製しスケールアップしたものを作製、低温処理にて配向性を持った心筋細胞シートを作製、重層化技術との融合により3次元配向心筋組織の構築をめざす。
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