研究概要 |
認知や発達の問題を考えることで、力学系の問題としてあたらしいモデル化や視点を提供できたと考えている。特にカオス的遍歴現象やカオスとランダムノイズの違いといった問題を、認知や発達のコンテキストにおいて議論することができた。それはお互いに学習しあうシステムのシミュレーションにもとづいている。具体的にはターンテークする(順番を時間的に交互にとりあう)エージェント間のダイナミクスを論じ、エージェントの示す、運動の多様性、適応性、履歴依存性、などを詳しく解析した。また、3人ゲームのダイナミクスをやはりお互いに学習しあうプレイヤーの問題として議論し、認知現象におけるカオス的遍歴現象の例として議論した。これらは、国際会議(ALIFE8,AISB)で発表し、学会誌に投稿(準備)中である。 一方で、形熊形成の力学は、自己複製を化学反応レベルで扱うモデルを押し進めた。いままで2次元で扱っていた系を化学反応から細胞膜を構成して自己複製にいたるシステムを3次元に拡張し、おおきな知見をうることができた。それは2次元の膜形成の場合と比べて、はるかに豊穣な形態が形成されることがわかったからである。このことは細胞はたんに乗り物ではなくて、内部との共進化の産物であるという主張を支えるものである。この結果は2003年度のヨーロッパALIFE国際会議で発表予定である。 これらに加えて、形態形成の力学と前半の認知のモデルをつなぐ上で必要な力学系の基礎的な問題をいくつか提唱することができた。そのひとつが、キィストーン種のシミュレーションである。複雑なネットワークをなす複製子の方程式をいろいろ調べた。そのなかで、ある複製子はその個体数に比べてそれが失われるとシステム全体に大きな影響を及ぼすもの(キィストーン種)が存在することを報告した。こうした種は、機能としての遺伝子的なもの、あるいはスイッチ的なものとして興味深い。この結果は、j. Biol. Phys.および、ALIFE8国際会議で発表すみである。
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