実効的な相互作用距離がさまざまな度合いで非局所的でありうるような3変数標準反応拡散モデル(Sモデル)を提案し解析を進めてきたが、これまでに見出された新しい挙動(多重スケール性をもつ時空カオス、self-organized pacemaker、位相特異性を欠いた回転スパイラルパターンなど)に加えて本年度はさらに新しい振る舞いのいくつかが見出された。それらはいずれも時空カオスの一種であり、第一のタイプは「ソフトモード乱流」である。これはいわゆるチェーンリング不安定性がゴールドストーン・モードの存在下で起こる場合に見られる乱流のタイプであり、同種の現象は電機流体学的対流現象に関連して観測されている。藤坂・山田は反応拡散モデルでこの現象の可能性をすでに指摘しるが、一般的予想にとどまっていた。本研究では縮約理論を援用することでSモデルを非局所結合複素Ginzbung-Landau方程式に変換し、この現象が現れるパラメタ領域を確定した。 今回見出された第二のタイプの時空カオスを「のこぎり波乱流」と暫定的に命名した。これは自励振動場の一様振動解が不安定化(Benjamin-Feir不安定性)するが定常進行波解はある波数領域で安定であるような条件の下に発生する。この時空カオスの詳細な性質の解明は今後に委ねられている。 また、近年水・油の乳濁液におけるBelouzov-Zhabotinskii反応(BZ-AOT系)の実験がV.K.VanagとI.R.Epsteinによって行われ興味深い現象が観測されているが、本研究のSモデルとの類似性に注目し、相互の関連を調べはじめている。
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