大自由度の力学系においてはしばしば相空間中に擬似的なアトラクター、つまり軌道を完全に引き寄せるわけではないにもかかわらず、典型的な初期条件から出発した軌道を長時間捕捉するようながしばしばあらわれることが観測されている。本年度の研究では、こういった疑似アトラクターのしめす様々な特徴についてのこれまでの研究成果をふまえて、特に大自由度の離散力学系モデルに焦点を当ててこういった現象を生む機構についての解析を進めた。 本年度の成果としてはこれまでに知られていなかった大自由度系特有のタイプの擬似的アトラクターが存在しうることを明らかにしたということがあげられる。本研究計画の目標とする課題と直接的に関係すると考えられる現象で、ここで関与する機構の本質的な部分は大自由度をもつ広い範囲の系に関しても適応する可能性を持ち、生物などの複雑系や各種の乱流における興味深いダイナミクスを理解するための一つの手がかりとなる可能性を持つものである。ただし現時点ではこの現象についてはまだ未解明の点も多くその全貌が明らかになったわけではない。現在は、計算機実験を用いた現象面での特徴の解析と、解軌道や疑似アトラクターの構造についての理論的解析の両面から引き続き研究を進めている。
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